人工知能(AI)研究の発展の歩みとは?活用事例と今後の課題

緑の機械的トンネル

近年の人工知能(AI)の発展は目覚ましく、将棋や囲碁など特定の分野では完全に人間を凌駕するに至りました。一般消費者の目に触れる部分でも、人工知能の活用をうたうサービスが次々に登場しています。大学の研究室や企業の研究所など、人工知能研究に取り組むところも増加傾向にあります。

そこで今回は、人工知能研究の歴史と現在、そして将来的な課題についてご説明します。人工知能がいかに発達してきて、現段階でどういった技術が実用化されており、どんな問題が考えられるのか見ていきましょう。

人工知能研究の歴史

人工知能研究の歴史は、いくつかの「ブーム」に分けられます。これまでの歴史と今後の展望について簡単にご説明します。

人工知能研究の始まり

人工知能研究の始まりは、第二次大戦後の1950年代までさかのぼることができます。機械の持つコンピュータの「知能」について、数学者チューリングは「チューリング・テスト」と呼ばれるテストを考案しました。これが1950年のことです。

チューリング・テストは、機械が知的であるかどうかを判定するテストです。2台のディスプレイのうち1台の裏には人間が、もう1台の裏には人間を真似るように作られたコンピュータがそれぞれ隠れ、ディスプレイへ問いかける質問者=判定者に対して人間らしく対応します。この質問者が人間とコンピュータを区別できなかったとき、そのコンピュータは「知的」であるとするものです。ここで、何をもって「人工的な知能」とするかの基準が生まれました。

その後1956年には初めて「人工知能(Artificial Intelligence)」という言葉が用いられ、人工知能研究が一つの研究分野として確立されます。神経細胞の電気ネットワークで脳が機能している事実を神経学者が発見したこともあり、このネットワークを人工的に解析する「ニューラルネットワーク」の研究も始まりました。

人工知能ブーム

人工知能ブームは、1950年代後半から始まった第一次ブーム、1980年代の第二次ブーム、2000年代以降の第三次ブームの3つに分けられます。

・第一次人工知能ブーム

第一次人工知能ブームは、1950年代後半から1960年代にかけて発生しました。総務省の情報通信白書では、その理由をコンピュータによる「推論」と「探索」であるとしています。コンピュータが特定の問題に対する解を示すことができるようになり、人工的な知能を構築する期待感が高まったのです。

しかし当時の技術ではコンピュータ性能がごく限られ、メモリ容量は少なく処理速度も遅く、大量の情報処理はできませんでした。複雑な要因の絡み合う現実社会の問題にコンピュータを適用することは到底できそうにないことが明らかとなり、ブームは終了します。

・第二次人工知能ブーム

次のブームは、第一次ブームが終わってから20年ほど経った頃に発生しました。コンピュータの推論に必要な情報を「知識」として提供できるようになり、専門的な特定領域の質問に答える「エキスパートシステム」の開発を中心に人工知能研究が活発化しました。日本でも、当時の通商産業省(現経済産業省)が「第五世代コンピュータ」の開発に乗り出すなどの動きがありました。

ただし膨大な知識を人間が知識化してコンピュータに与えるのは非現実的であり、活用可能な知識量はごく限られたタスクや領域に対するものだけでした。そのため、1990年代半ばにはブームが終わり「冬の時代」を再び迎えます。

・第三次人工知能ブーム

第三次ブームは、2000年代半ば頃から現在まで続いています。人間が知識を与えるのではなく、人工知能自らが大量に蓄積されたデータ(ビッグデータ)から知識を習得する「機械学習」という手法が登場します。さらに知識を定義する要素(特徴量)まで人工知能が習得する「ディープラーニング(深層学習)」が登場し、人工知能の実用化が一気に進みました。

Google(Alphabet)やAmazon、Facebookなどといった巨大テクノロジー企業は、自社で開発した人工知能をオープンソース化(公開)しています。そのため、外部の企業や個人でも手軽に人工知能プログラムを活用してアプリケーションを開発できるようになりました。このことも、人工知能の発展と普及を加速させています。人工知能開発に携われる人材は、世界的にも引っ張りだことなっています。

技術的特異点(シンギュラリティ)の提唱

人工知能研究が加速度的に進化していることで、その行方に対する関心も高まっています。人工知能研究者であり未来学者でもあるレイ・カーツワイル氏は、2005年に問題解決能力が指数関数的に加速することで人間に代わり人工知能が文明の主役になるとして「技術的特異点(シンギュラリティ)」という概念を提唱しました。

カーツワイル氏によれば、2045年には人知の及ばない優秀な人工知能が登場するとされています。「2045年問題」とも呼ばれ、賛否を含めて世界中で大きな議論を呼んでいます。

人工知能を活用した主な技術

人工知能を利用したさまざまなプロジェクトが進んでいます。ここでは、人工知能研究の積み重ねによって、現段階で実現されている技術を4つご紹介します。

認証システム

音声や画像の情報から人間や状況を認識するシステムです。スマートフォンや住宅・会社のセキュリティなどに使用されています。特に人間を判断する場合、指紋や虹彩、声紋などが認証に用いられるケースが多いです。ソフトバンクの「Pepper」のようなロボットも、相手の顔を判断するシステムを備えています。

自然言語処理

音声認識とも似ていますが、一歩進んで人間が日常的に用いる自然言語を処理する技術です。パソコンやスマートフォンの文字変換、機械翻訳、スマートスピーカーや自動応答システム(bot)など実用例が拡大しており、処理の精度も飛躍的に向上しつつあります。

情報検索システム

情報検索も、人工知能の活用が早くから進んだ分野です。検索エンジン最大手のGoogleでは、自然言語のクエリ(入力された検索内容)の理解や検索結果のランク付けのために人工知能システムを活用していると明らかにしています。また、社内の情報検索に人工知能を活用する事例も出てきています。

推論

知識を組み合わせて意思決定を行う推論も、人工知能が得意としています。トップ棋士に圧勝した囲碁プログラム「AlphaGo」は、ディープラーニングによって囲碁を学習し最適な手を推論によって導き出しています。自動運転技術でも、状況を察知して最適なルートを導き出すなど、推論が数多く活用されています。

人工知能研究の今後の課題

これまでの歴史と現在の実用例に引き続き、技術革新の目覚ましい人工知能研究が抱える課題と現状について最後にご説明します。

人間が使う言葉の理解

自然言語処理が進んだ現在でもなお、人間の使う言葉の理解は課題であり続けています。人間が学習内容を組み合わせて未知の状況に応用できるのに対して、コンピュータはテキストや音声などのデータを継続的に取り入れなければ言葉や考えを知識として増やすことができません。

人間のように、言葉を理解して未知の文脈や状況に適応できるような人工知能の研究に力を入れるチームも多いです。

バグやハッキングへの対処

セキュリティにも課題があります。人工知能のソフトウェアはきわめて複雑であるがゆえに、些細なことで誤認を招く可能性があります。たとえば、道路標識を認識するシステムにおいて、標識にゴミが付いていたために異なる標識と間違えたといったケースがありました。アルゴリズム上では些細な誤りかもしれませんが、誤りを修正しないままで実用化されたときの影響の深刻さと大きさははかり知れません。

ハッキングによってプログラムが書き換えられるような事態が発生すると、大きな社会的混乱を招く恐れすらあります。ハッキングや誤認を引き起こさないような対策はとても重要な課題です。

機械による善悪の判断

人工知能と倫理の関係も課題です。人工知能が自動的に意思決定を下していく中で、偶発的であっても人間に害をもたらす可能性がないとは言い切れません。昔のSF映画のような話ですが、人工知能が倫理的に正しくない事柄を「正しい」と判断するかもしれないのです。

そう考えると、人工知能の判断力だけでなく、倫理観まで身に付けさせることで「人間的」な判断を下せるようにコントロールしなければいけないかもしれません。

人工知能研究が急ピッチで進んだ社会に備えて

2000年代から始まった人工知能の第三次ブームは終わりの兆しを見せておらず、日進月歩で新たな技術が登場しています。シンギュラリティが到来するかどうかはともかくとして、近い将来の人間社会が人工知能を組み込む形で発展することはほぼ間違いありません。

人工知能が当たり前になった社会で、人間がどんな仕事をしてどう生きるのか考えることが求められると言えるでしょう

 

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