近年になって、IoT(Internet of Things)のニュースを見聞きする機会が増えました。インターネットの接続や利用、データの送受信と蓄積・管理などのコストが下がったことで、パソコンやスマートフォン、タブレットのみならず、さまざまな製品がインターネットを利用できるようになったのです。
IoTが普及した背景には、IoTを利用した製品を開発する企業をサポートする「IoTプラットフォーム(IoT Platform)」の存在があります。今回は、IoTプラットフォームの基礎知識や種類、できることをご紹介します。
IoTプラットフォームの基礎知識
IoTおよびIoTプラットフォームの概要について、簡単にご説明します。IoTプラットフォームのメリットを大まかに把握していただければと思います。
IoT(Internet of Things)とは?
IoT(Internet of Things)は、日本語で「モノのインターネット」という意味です。家電や住宅、セキュリティデバイスなどの「モノ」をインターネットと接続して、リアルタイムでデータの通信や利用を行う仕組みや概念をIoTと総称しています。データ連携によって、個々の製品の付加価値を高めるのです。
たとえば、既に存在するIoTの事例として、一人暮らしの高齢者の生活状況を遠隔の親族に伝える自宅の見守りシステム、高度なセキュリティを実現する顔認証システム、パソコンや炊飯器などの家電の遠隔操作システムなど、生活の利便性と安全性を高めるシステムが実用化されています。
これまで単独で稼働していた製品がインターネットに接続されることにより、消費者のみならず企業にもメリットがあると考えられています。消費者の利用データをリアルタイムで収集・蓄積できるため、製品開発やマーケティングなどへの活用が目指されています。IoTは、ビッグデータや人工知能(AI)などとの関連も深いです。
IoTプラットフォームとは?
IoTプラットフォームは、IoTシステムの構成に必要な標準基盤です。IoTに接続されるモノ=ソフトウェア(アプリケーション)は、前述の通り家電や住宅を始め多種多様に存在します。しかしそれぞれのソフトウェアが持つ機能の根っこの情報処理には、データ収集やその蓄積・管理、ソフトウェアの搭載など、共通する部分が多いのです。
この共通する部分をあらかじめ準備するのが、IoTプラットフォームです。IoTデバイスに必要なハードウェア・ソフトウェア・ネットワーク・APIに加えてクラウドサービスを組み合わせた統合システムであるため、「IoTクラウドプラットフォーム」と呼ばれることもあります。
企業がIoT利用を進めるうえで、課題となるのが開発コストでした。IoTを利用するためには、利用する事業者側でデータのやり取りや蓄積・管理などをコントロールするシステムを一から構築しなければならなかったのです。それでは非効率的ですし、IoTの活用が促進されません。
これを解決するのが、IoTプラットフォームです。あらかじめ用意されたIoTプラットフォームを利用すれば、事業者側はソフトウェアを乗せるだけでIoT化を実現できます。自社で一から開発するより、迅速かつ低コストでIoTを導入できるケースが多いのです。IoTプラットフォームを開発している企業の多くはSIer(システムインテグレーター)で、ユーザーとなる企業はパートナーとして契約を締結し、IoTプラットフォームを提供される形となります。
なお、IoTプラットフォームの機能や仕組みはサービスによって異なります。IoTプラットフォームの種類やできることの具体的内容については、次項以降でご説明します。
IoTプラットフォームの種類
IoTプラットフォームには、いくつかの種類が存在します。ここではどんな種類があるのかご紹介するとともに、それぞれの違いとメリットについてお伝えします。
水平・業種フルカバレッジ型プラットフォーム
その名の通り、幅広い業種をカバーした基本的なIoTプラットフォームです。IoTプラットフォームの持つデバイス管理、データの収集・蓄積・管理・分析といった一連の機能を全て持ち合わせています。
水平・業種フルカバレッジ型プラットフォームは汎用性が高く、必要に応じてカスタマイズできるのが特長です。導入後にビジネスモデルの大幅な変更や機能の拡張・変更などが考えられるケースに適しています。その一方で、特定の分野や機能だけにIoTを取り入れたい、コストが限られているといったケースでは他の種類を選んだ方がよいかもしれません。
垂直・機能フルカバレッジ型プラットフォーム
水平タイプに対して、垂直とは一つの業種に特化していることを指しています。ただし「機能フルカバレッジ型」ですので、その業種のビジネス全体にIoTを導入する目的でこのプラットフォームを採用するのが適切です。
垂直・機能フルカバレッジ型プラットフォームは、IoTソリューションに関わるさまざまな要件を網羅しています。ソフトウェアの開発や導入、クラウド基盤・ネットワーク・センサーなどの構築が可能です。業種に特化したシステムの開発に向いている反面、汎用性は低いです。
垂直・アプリ提供型プラットフォーム
特定の業種向けの垂直型であるとともに、一部の機能だけを提供するプラットフォームです。ネットワークやセンサーの構築などの機能に限られ、開発や導入、運用支援に関する機能を取り除いています。
垂直・基本機能提供型プラットフォーム
アプリ提供型よりも、さらに目的や機能を絞ったプラットフォームです。遠隔監視や予防保全だけのIoTプラットフォームが既に存在しています。
IoTプラットフォームでできること
IoTプラットフォームでできることをまとめます。プラットフォームの種類によって、ここでご説明する機能のうちどれができてどれができないか、確認する必要があります。
デバイスマネジメント
IoTプラットフォームの重要な機能が、デバイスマネジメントです。センサーやカメラ、マイクなどのハードウェア・デバイスをプラットフォーム上に登録し、デバイスから得られた情報を、クラウド上で一括管理します。
データの収集、保存
インターネットを介して、サーバーやクラウド上にデータを収集・保存します。また、IoTプラットフォームの中にはセンサーによって温度や湿度、気圧を始めとした周辺環境や動きを収集できるものもあります。超音波を活用して、人間の位置情報や動作などの高度なデータを収集するケースもあります。
データの分析
ただデータを収集・保存するだけでは、宝の持ち腐れです。IoTの活用で発生するデータは「ビッグデータ」と呼ばれるだけに、人間が分析を行うにはあまりに膨大すぎる点があります。そこで、IoTプラットフォームがデータ分析の基盤を提供しているのです。データ分析には、人工知能(AI)を用いるケースが多いです。
IoTプラットフォームの収集するビッグデータを分析できれば、ビジネスの現場で人間には思いもつかない知見を生み出す可能性があります。経験や勘、人間のデータ分析だけでは到達できない高度な意思決定ができるようになるわけです。分析結果は日常的にモニタリングできるため、有効活用もしやすいです。
データの可視化
収集したデータを、リアルタイムで表示できます。データによっては、グラフィカルに可視化してくれることもあります。蓄積した情報の異常を監視したり、進捗を適切に管理したりするためにはデータの可視化機能が必要不可欠です。
IoTプラットフォームがIoTの社会利用を促進する
IoTのような新しいテクノロジーをIT業界以外の企業が利用したいと考えたときに、利用に至るまでの時間的・金銭的コストが大きなハードルとして存在します。要するに導入があまりに大変であるとともに、導入してからも上手に運用できず埋もれていく……こうしたリスクが新技術には常にあるのです。
IoTにおけるIoTプラットフォームは、こうしたハードルを大きく引き下げる可能性を持っています。全業種で、あるいは特定の業種・事業で必要とされる機能をプラットフォームがあらかじめ提供すれば、各企業はアプリケーションを乗せるだけでIoT化を実現できるようになるからです。
これからもIoTはビジネスおよび生活のすみずみに浸透していくことが期待されます。その背景には、IoTプラットフォームが「縁の下の力持ち」として働いていることを覚えておいていただければと思います。