反転授業とは?従来の授業形態を反転させる学習のメリットと課題

黒板に九九が書かれている様子

アクティブラーニングや協同学習など、さまざまな学習スタイルが新たに生まれています。その一つとしてアメリカで人気を博しているのが、「反転授業」です。日本でも、一部の学校で実験的に反転授業の試みが行われています。

反転授業には多くのメリットがあると指摘される一方で、実施するには設備や家庭の協力が必要などの課題もあるようです。今回は、反転授業の基礎知識とメリット、課題についてご紹介します。

反転授業の基礎知識

実は、反転授業の実践自体は昔から日本でも行われていました。反転授業が何なのか、なぜ今注目を集めているのかご説明します。

反転授業とは?

反転授業とは、学校の授業と自宅の宿題を「反転」させる学習方法です。要するに、学ぶ内容は自宅で宿題として身に付けて、学校の授業では身に付けた内容をアウトプットします。生徒同士で協力や討論をしながら課題を解決する「協同学習」の要素もあります。

従来は一方的な講義形式の授業で基礎知識を学び、それを活かして宿題では応用的な問題を解く形が一般的でした。こうした基礎・応用の関係も、「反転」しているわけです。

ここで「応用」とは、必ずしも基礎問題より難しいという意味だけではなく、知識を使ったり組み合わせたりするという意味も含んでいます。教師は教える人ではなく、生徒のサポーター的役割に徹します。

反転授業は、2000年代にアメリカで提唱された教授方法です。英語でflipped teachingやflipped classroom、あるいはreverse teachingなどと呼ばれています。タブレットやデジタル教材が普及したことで、こうした機材を生徒に配布して自ら基礎知識を覚えてもらうやり方が効率的なのではないか、という考え方が広まったのです。

反転授業のように、正規の授業とオンライン教材を用いた個人学習を組み合わせた学習形態を「ブレンド型学習(blended learning)」と呼びます。テクノロジーの発達により、ブレンド型学習ともども反転授業への注目度がますます高まる可能性があります。

日本で行われている反転授業

反転授業という言葉が広まる以前から、反転授業的な授業形式は日本でも存在しました。小学校から大学までの公教育のみならず、学習塾や予備校でも基礎知識を自習し、授業では応用的内容を取り扱うスタイルはそれほど珍しくありませんでした。

特に、10年ほど前からは実績のある先生の授業を動画に収めて、生徒はその動画を再生して勉強するスタイルの予備校が全国的に広まっています。広い教室を設ける必要も多くの講師を雇う必要もないため、経営効率的にも都合が良かったと推測されます。

一部の学校でも、動画で知識を学べるように設備を整えたところがあります。家庭学習の時間が増えるなど、一定の効果が表れているようです。

反転授業のメリット

近年広まる反転授業のメリットを3点ご紹介します。子供にとっても教師にとってもメリットがある点を理解しましょう。

子供が積極的に学習できる

基礎知識と言っても、自習だけで子供が一から十まで理解するのは難しいかもしれません。しかし、少なくとも自分の分からなかった点がどこなのか、自分なりに整理して授業に臨めるのがメリットです。不明点を重点的に理解しようと努めますから、授業での理解効率も上がります。

従来の授業では、子供たちが白紙の状態で臨むために「どこが理解しにくいのか」「どの部分を注意すべきなのか」などをあらかじめ認識することはできませんでした。また学習塾や家庭教師などを利用して先取り学習をしている子供にとっても、学校の基礎的な授業はそれほど魅力的なものではなかったと考えられます。

子供たちが自宅で予習しており、最低限の基礎知識を身に付けていれば、学校の授業では理解の難しい点に絞ってメリハリをつけた教え方ができます。また難しい演習や応用的な課題など、より踏み込んだ内容に挑戦させることも可能です。

以上のように、子供が積極的に学習できるのに加えて、教師の方も積極的に授業プランを組み立てられるのが反転授業のメリットです。

子供が学習習慣を身に付けやすい

反転授業は、子供が家庭で学習することを前提に形作られています。従来型の授業では、授業だけで理解しきることが推奨されていました。そのため宿題が出ない限り、また保護者がドリルや参考書などを別途与えない限り、子供が家庭での学習習慣を身に付けることは簡単ではありませんでした。

反転授業を通じて家庭での予習が前提となれば、自然と家庭学習の時間量は増えます。学習習慣が身に付くことで、成績を伸ばす子が増えることも期待されます。

教師が子供の理解度を把握しやすい

子供だけでなく、教師にとっても反転授業にはメリットがあります。自宅で子供に学習させた上で授業に臨めるので、子供たちの不明点にフォーカスした授業を展開できるのです。タブレットなどのデジタル教材やオンライン教材で学習させれば、誰がどんな問題をいつ解いたのか、正答率はどれくらいか、弱点はどこなのかなどのデータを知ることも可能です。こうしたデータを踏まえて、柔軟に授業内容を変更させられます。

どうしても従来の授業だと、一発勝負で進めなければなりませんでした。経験豊富な教師であれば、子供たちがどこで詰まりやすいのか感覚的に分かったかもしれません。しかし経験がなければそれが分かりませんし、経験があったとしても本当にその感覚が正しいのか裏付けがありません。そのため、教師としても手探りで授業計画を立てなければならなかったのです。

教育のデジタル化と反転授業の普及は、教師が客観的根拠に基づいて授業を組み立てることを可能としました。一見個々の子供に学習をゆだねているように見えますが、教師が子供たち全体の学習状況と理解度をハンドリングしやすい形式であるとも言えます。

反転授業を行う上での課題

反転授業は従来型の授業と大きく異なるスタイルを持つだけに、その実施にはさまざまな課題があります。家庭や学校でどう対応すべきなのか考えてみましょう。

家庭での学習時間の確保

まず考えられるのが、授業外で子供が学習する時間を確保するのも大変だということです。家庭学習の多くはビデオ教材の視聴を必要とするため、どんな子供でも一定の時間を割く必要があります。部活や学習塾などにたくさんの時間を費やしている子供たちが、家庭学習にさらに多くの時間を使うのはなかなか難しいという現実があります。

それぞれの家庭で工夫しながら学習を進められるのであれば問題ありませんが、子供たち全体の理解度定着を前提とする学校教育で反転授業を毎年実施するのはかなり大変です。

家庭でのデジタル環境の整備

デジタル教材を家庭で利用することが前提なので、パソコンやインターネット環境のない家庭にはきわめて不利な授業スタイルです。場合によっては、反転授業の実現のために家庭に対して費用面の負担をお願いすることになりかねません。

学習進度の差

ICT環境の整備と関連して、家庭環境の差に基づく学力差が顕著に出るリスクがあります。子供や家庭の自主性に任せる範囲が大きいので、家庭が自宅学習に積極的でなかったり、そもそも家庭が学習に適した環境でなかったりすると反転授業は成り立たないと考えられます。

学校の授業は、基礎を身に付ける時間ではありません。したがって事前に教材を確認できないと、授業についていけなくなる可能性が高いです。そう考えると、反転授業は教育熱心で経済的に裕福な家庭の多い一部の地域でしか成立しない可能性もあります。

反転授業は家庭のサポートがあってこそ

家庭で基礎を身に付け、学校で発展的な課題を扱う反転授業は、インプット偏重だった学校教育を大きく変える可能性があります。しかし、反転授業を成立させるには家庭で基礎知識をインプットできるよう環境を整えるなどのサポートが不可欠でしょう。

保護者としては、反転授業のエッセンスを家庭学習に活かす道が考えられます。学校で扱う内容を一部家庭で学んだり、学校で学んだ内容を踏まえて実生活との結びつきを意識させたりと、知識のインプットとアウトプットのバランスを調整するようなサポートがおすすめです。

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