保育所保育指針とは?押さえておきたい平成30年の改正ポイント

玩具で遊ぶ子供

保育所における保育内容や運営の決まりを「保育所保育指針」と呼びます。学校にとっての学習指導要領のように、保育所保育指針に基づいて保育士など専門家の実践が行われています。

この保育所保育指針が新たに改正され、平成30年(2018年)に施行されました。その背景には、社会や保育環境を巡る変化があります。今回は、保育所保育指針の基本と最新の改正のポイントをお伝えします。

保育所保育指針の基礎知識

最初に保育所保育指針の概要と、平成30年(2018年)から施行された改正の背景についてご説明します。

保育所保育指針とは

保育所保育指針とは、保育所における保育の内容やその運営に関して定めた指針です。ここでいう「保育所」とは、主に保育園と認定こども園が含まれます。幼稚園は文部科学省の管轄下にある教育施設であり、保育所保育指針とは異なる「幼稚園教育要領」に基づいて教育実践を行う施設です。ちなみに認定こども園は「幼保一体型施設」とされ、保育所保育指針と幼稚園教育要領の両者を基準としています。

全国の保育所は、認可、認可外に関わらず、保育所保育指針に準じて保育の資質向上を目指します。子供の健康や安全、発達の保障を確保するために、保育の内容を組織的・計画的に構成することが定められています。

なお、保育の内容に関する規定に対しては、「遵守しなければならないもの」「努力義務の課されるもの」「基本原則にとどめ、各保育所の創意や裁量を許容するもの、または各保育所での取り組みが奨励されることや保育の実施上の配慮にとどまるもの」の3つに区別されています。

平成30年の保育所保育指針改正の背景

昭和40年(1965年)に策定された保育所保育指針は、社会の変化に伴って、これまで4回の改正が実施されています。4回目は平成29年(2017年)3月31日に告示されて、翌平成30年(2018年)4月から施行されました。近年になって保育所の役割がいっそう重視されるようになったことを踏まえており、約10年ぶりの改正となります。

改正の背景にあるのは、社会の変化と児童心理に関する研究の進展です。社会の変化として挙げられるのは、「保育所を利用する児童数の増加」や「核家族化、地域のつながりの希薄化といった保育環境の変化」、さらには「児童虐待の相談対応件数の増加」「共働き家族の増加」などです。要するに、保育所に対するニーズがこれまでになく高まった一方で、保育所以外の保育環境が手薄になっているわけです。

また、児童心理についての考え方も変化しています。各種の研究によって、乳幼児期の自尊心や自己制御力などの発達が大人になってからの生活に影響を及ぼすことが明らかになっています。そのため、乳幼児期に多くの時間を過ごす保育所における経験が長期的に子供の発達へ影響するとの考えが強まったのです。

以上を踏まえて、2018年になって新たな保育所保育指針が施行されました。子供の健やかな発達は、子供のみならず社会的にも重要です。保育士などの専門家はもちろん、保護者や周辺住民など子供の保育に関わる幅広い関係者も趣旨を理解する必要があります。

参考:厚生労働省「保育所保育指針」

参考:厚生労働省「保育所保育指針解説」

押さえておきたい保育所保育指針の改正ポイント

最新の内容を押さえることで、最新の知見と国の考え方をつかむことができます。改正のポイントについて、概要をお伝えします。

乳幼児保育に関する記載内容の充実

乳児および1歳以上3歳未満の幼児の保育に関する記載内容が充実しました。具体的には、0歳児の保育(乳児保育)、1~3歳未満児の保育、3歳以上児の保育という3つの段階に区分するとともに、3歳未満児に対する保育の質を向上させるための具体的な内容や、保育のねらいなどが盛り込まれました。

この背景には、0~2歳児の保育所利用率が上昇していることと、この時期の保育の重要性についての認識が高まったことの2点があります。3歳以上児と記載を分けるとともに、特に0歳児については「身近な人と気持ちが通じ合う」「身近なものと関わり感性が育つ」「健やかに伸び伸びと育つ」という視点から記載内容が整理されました。

保育所の幼児教育施設化

幼児教育施設として保育所を位置づける傾向が強まりました。もともと保育所は厚生労働省の管轄であることもあり、教育ではなく福祉としての立ち位置にあったといえます(教育は文部科学省の管轄)。しかし、保育所保育も幼児教育の一翼を担っているとの考えが強まったことで、幼児教育へ積極的に取り組むことを保育所の努力義務と定めました。

具体的には、卒園までに育ってほしい姿を明確化するとともに、いわゆる「非認知能力」の向上を図ります。読み書き計算のような授業をするのではなく、主体的な遊びを中心とした教育内容を通じて思考力や判断力、表現力、人間性を育むということです。

健康や安全の記載の見直し

保育所全体における健康、安全確保の重要性について明記されました。特にアレルギー持ちなど、免疫力の弱い乳幼児の健康対策を記載しています。また、食育に関する記載内容も見直されました。

地震や台風、噴火などの災害が相次いだことを背景に、緊急時における対策方法の記載が新設されたことも重要なポイントです。

保育所保育指針を知るメリット

保育士ならいざ知らず、一般の保護者が保育所保育指針を知る必要があるのか疑問を感じる人もいるでしょう。一般保護者にとってのメリットをご説明します。

乳幼児教育において大切なことがわかる

最大のメリットは、子供の発達に応じて子供を保育する重要性がわかることです。どうしても0~2歳児の子供の成長にはばらつきがあり、なかなか「普通は○○となる」といいにくい点があります。保育所保育指針の内容を大まかにでも知っていると、そうした子供の健康状態や心身の状態、そしてそれに応じた保育について理解できます。

もちろん保育所保育指針は、保育雑誌や医師の指導などに比べて抽象的であり、そのまま参考にはできないかもしれません。しかし、子育てする中で核となる考え方がわかっているのとわかっていないのとでは、保護者としても心の持ちようが変わってくるものです。

緊急時の対応について学べる

保育所保育指針には、災害時や子供の急病時など緊急時の対応についての指針が盛り込まれています。こうしたときの対応について、意識するきっかけになるでしょう。

特に、災害時の連携を学べます。保育所はどのように対応するのか、保護者はどのように対応するべきなのかを理解することは、保護者にとって防災訓練のような機能を持つことになります。

保育所の取り組みを理解できる

保育所が何を考え、どのようなポイントに配慮して保育をしているか理解できます。また、現在の保育所や幼児教育の世界でよしとされる理念を知ることもできます。

日頃、保育所の職員と接する中で教えてもらえるのは、あくまで「何をしたか」という、実践レベルのことがほとんどです。その背景としてどういった理念の裏付けがあるのか、込み入った話をする機会はそう多くないでしょう。保育所保育指針を読んでいれば、一般的な保育所の持つ理念がある程度理解できます。

保育所の取り組みを知ることで、家庭での保育に生かせるメリットもあります。保育所と一貫した考え方で保育できるのであれば、子供の健やかな成長につながりやすいでしょう。

保育所保育指針は保育に対する考え方を理解するための教科書

保育所保育指針はあくまで専門家に向けて書かれたものですが、決して一般の保護者が読んでも意味がないわけではありません。保育所保育指針にどのような内容が書かれているのかを把握するだけでも、保育所や保育そのものに対する理解が深まります。

保護者の中には、何を考えて子育てすればよいのか悩んでいる人も少なくありません。保育所保育指針を読めば、子供を預けている保育所の考え方や自分の持つべき子育て観を理解する参考になるはずです。ぜひ一読をおすすめします。

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